2012年4月5日木曜日

社会保険未加入問題の問題点を見極めよう

建設業だけの問題か?

最近、年金問題がなにかと取り上げられることが多いが、その論調は「入っていない業者はけしからん」というものが多い。確かに、法人事業所は社会保険加入が義務づけられているため、入っていないのは法律上けしからんということになる。建設業者には社会保険に未加入の事業所が多いということも聞こえてくるが、果たして建設業特有の問題なのでしょうか。

年金問題は不祥事続き

最近では、企業年金資金の運用をAIJに委託し、巨額の運用損をしたという事例があり、被害の拡大には社保庁OBの関与も指摘されている。
社会保険に関わる不祥事は過去にも様々あり、行政側の不祥事などは事業者の責任ではない。社会保険未加入問題だけではないにも関わらず、この問題のみを焦点に当てているのは、何か別の意図を感じる。

低入札受注の横行と労働者の外注化で疲弊する建設業界

さて、最近、建設業者の社会保険未加入問題が取り上げられているが、4月2日の全国商工新聞に下のような記事が掲載されていた。これによると、社会保険の未加入問題は建設産業特有の問題ではなく、中小零細法人企業全体の問題だといことが分かる。
建設産業は受注産業だ、建設投資が盛んだった時代は、仕事も切れることなく直接雇用労働者も多かった。しかし、現在は建設投資額もピークの半分にまで落ち込み仕事は激減、少ない仕事を奪い合う企業競争の激化により、低入札受注が横行していた。そのしわ寄せは、下請業者や末端の労働者だけでなく、ゼネコン、業界をも疲弊させ、建築物の品質確保も難しい状況に置かれている。
「仕事があるとき」と「仕事が無いとき」が出始めると、若手労働者は、直接雇用から個人事業主(一人親方)に置き換えられ、仕事をした分だけ請負代金を払う形態に変わっていった。このような状況が長期間続き、屋外作業で危険できつい仕事の割に利益が上がらないことで、若者が建設産業から離れるが、一度離れた若者は、業界に失望している場合が多く、なかなか業界に戻ってこない。戻ってこないし入ってこないという負のスパイラルに陥ってしまい。現場労働者の高齢化も深刻だ。
このタイミングで社会保険制度の欠陥を放置したまま、負担だけを事業主に押しつけては、業界自体が立ち上がれなくなる危険性すらある。

社会保険料負担は大変

下記記事にも書いてあるとおり、月30万円を給与で支払う場合、厚生年金は24,618円、健康保険料は14,955円(介護保険料は含まない)、合計で39,573円を労使それぞれが負担することになる。5人いれば197,865円の事業主負担ということになる。

技能者確保が大変な建設産業

昨年の東日本大震災時には、建設資材の調達が止まり現場も止まった。建設業界は現場が止まると無収入になる。中小企業の事業主は収入がなくても労働者への賃金などは支払わなければならず、大変な苦労を強いられた。しかし、中小建設業者にとっては仕事が無いから「はいさよなら」という訳にはいかない。建設産業は特殊な技能を有する労働者も多く「仕事が出てきたときに雇えばいい」という産業ではないからだ。

問題解決には建設業界のルール作りや労働条件改善が先

社会保険未加入問題は、「払えない保険料設定」「不安な制度」ということが根本的な問題で、問題の解決には安値競争ではなく、適正価格での工事の受注と、ルールある建設産業を作ることを初めに考えるべきで、そのことを後回しにしては先に進まない問題だといえるでしょう。

4月2日 全国商工新聞 第3017号


問題の先送り体質が横行している業界団体と大企業

下記は大手建設企業が加盟する日建連の提言前文です。私たちの建設労働組合は、毎年大手企業交渉を行い、提言と同様の内容の問題を指摘し続けてきました。日建連の提言後、日建連会員企業との交渉で下記の提言を評価し、実現に向け一緒に協力していこうという旨の交渉を行って来ました。しかし残念なことに、企業側の回答はおおむね「提言の趣旨は理解しているが一企業では解決できない問題」と問題解決に向け動こうとする企業はありません。このような問題を先送りする大企業の体質も、社会保険未加入問題を解決できない障壁になるでしょう。

日建連の提言前文】

建設業は国家を形成する基幹産業であり、その投資額の多さ、従事する者の多さなどを見てもその重要性は揺るぎないものであります。現在、この建設業を支える大きな要素であります建設技能者は、新規入職者の減少、高い離職率等により、高齢化が進み、減少してきています。原因は様々なことが考えられますが、何より年収の低さ、職場環境の悪さ、退職後の生活への不安等により、ものづくりの達成感を実感できるという建設業本来の魅力が感じられなくなってきているということが大きいでしょう。ビルや道路、鉄道などいわゆる建設業の成果物は、基本的に一品生産でそれぞれが異なったものであり、かつ現地生産であるので、製造業の成果物たる工業製品などとは異なり、多種の技能者によって初めて建設されうるものであります。しかしながら、我々は現在の建設技能者が高齢化し入職者が少ないという状況に対して、近い将来、熟練した建設技能者が枯渇し建設業が産業として成り立たなくなるのではないかという危惧を感じています。今回、この提言のとりまとめを担当した労働・生産システム委員会に課せられた使命は、この厳しい現状をいかに打破し、将来に健全な建設業を継続させるためにどのような取り組みが必要かを検討することにありました。この提言で示した内容は、我々元請にとって痛みを伴うものかも知れませんが、今手を打っていかなければ、将来、建設業も成り立たなくなってくるという危機感を共有して対応すべきとの考えに立ち、まとめたものであります。